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いいこは怒らせると怖いですよ?
いいこは怒らせると怖いですよ?
ผู้แต่ง: 和成ソウイチ

第1話 絶望の中の希望

ผู้เขียน: 和成ソウイチ
last update วันที่เผยแพร่: 2026-04-25 09:55:42

 私――井伊こよりは強く思う。

 真面目な人間が損をする。

 正直者が馬鹿を見る。

 そんな世の中、私は大嫌いだ――と。

「う、く……」

「ほらほら、『いいこちゃん』! 何か言ってごらんよ。いつもみたいに、さ!」

「あぅっ!」

 思いっきり頬を叩かれ、私は唇から血を流した。

 全身ぼろぼろだ。殴られ、蹴られ、水をかけられ……眼鏡もフレームから折れてしまった。

 そんなに、あなたは私のことが気に入らないのか。私のことを認められないのか。

 私はまだ高校1年生だけど、生徒会副会長としてやれることをやってきた。

 決して日の当たる役割じゃなくても、それでも皆のために頑張ってきたつもりだ。

 なのに今、先輩の金髪女子を中心にした集団に、寄ってたかって暴行を受けている。

 理由は――何となくわかっている。副会長として、彼女を何度か注意したのだ。

 年上だからって関係ない。不良には、それ相応の態度で臨まなければいけないと私は考えていた。

 私のこのスタイルを、仲間たちは「真面目だね」「さすが井伊さんだ」と評価してくれていた。

 その結果が、今だ。なんだこれ。

「なぁ、綺羅良きらら。こいつ金持ってねえの?」

「ああ、ダメダメ。いいこちゃんの家、詐欺られてマジヤバなんだって。親が馬鹿だと子も馬鹿になるんだねぇ」

「……っ!」

 両親を悪く言うな。

 あの人たちは、ちょっと生きるのが不器用なだけなんだ。

 殴られて朦朧とする中、私はリーダー格の金髪女を睨んだ。彼女はにやりと笑う。

「そうそう、いいこちゃん。あんた今日で退学なんだって?」

「……それは」

「噂になってるよ。身内のじーさんに、借金のカタに売られるんだって? 今どきそんなのある? マジヤバいんだけど」

 がっ、と髪をつかまれた。

「つーわけで、あんたとも今日でお別れ。あたしらが企画したお別れ会、楽しかった? いいこちゃん、友達いなくてかわいそうだからね。今まで··になったお礼よ」

「先生は……楓先生は、何て」

「あのオバサン? 何かいろいろ抗議してたみたいだけど、後の祭りよ。めっちゃ悔しそうな顔がウケたわ。規則なんて無視すりゃいいのに、真面目な奴らってホント馬鹿よね」

「先生……」

「世の中ね、馬鹿正直でクソ真面目な奴ほど損をするようにできてんの。その証拠にほら、誰もあんたを助けに来ない。みんな、自分が可愛いんだよ。わかってないのは、あんただけ」

 金髪女が私の頬を軽く叩く。傷よりも胸の方が痛んだ。

「ああ、そうそう。あんたがいなくなって、ずいぶん風通しがよくなったって生徒会の奴が言ってたよ。面と向かって言いにくいから、代わりに言っといて、だってさ。あたしって『いい生徒』だよねぇ。そう思わない? いいこちゃん?」

 痛すぎて、涙も出なかった。

 その後、私は高校を退学した。模範的生徒が、あっという間に中卒だ。

 笑うに笑えない。泣くに泣けない。そんな元気も湧かなかったからだ。

 だけど、本当の地獄はここからが始まりだった。

 私の祖父は、いくつもの会社を手がける実業家で、資産家だった。祖父の家に引き取られた私は、表向き、何不自由のない生活を送った。

 食生活は劇的に改善したし、着る服の値段は1着5桁を下回ることがなくなった。学生時代にはいっさい興味のなかった化粧も、すぐにプロ顔負けの技術を身につけるまでになった。

 それらはすべて、祖父が私を、一人前の『駒』として使うためだ。

 ――2年後。私は18歳になった。

「以上が、本社からの指示になります。退去は一両日中にお願いします」

「ま、待ってくれ。いくら何でも急すぎる! お願いだ、会長に繋いでくれ!」

「ダメです。規則ですので」

「……この、人でなしが!」

 私よりも二回りは年上の男性が、青筋を浮かべて私を怒鳴りつける。

 高級スーツに身を包んだ私は、冷たく事務的な微笑みを浮かべて、ただ淡々と、真面目に職務を遂行する。

 祖父が用意した私の使い道――それは、関連企業の中で最も「闇が深い」と噂される会社のエージェントだった。

 高校中退から約2年。その間、私は祖父から帝王学さながらの教育を受けた。そして成人すると同時に、この会社に押し込められたのだ。

 私に拒否権はなかった。

 真面目だけど生き方が下手な両親を、これ以上経済的に困窮させるわけにはいかなかった。

 地上げ、債権回収、スキャンダルの封じ込め、あるいは掘り起こし……。業務内容は多岐にわたりすぎて、とてもまとめられない。

 だが、あえてひと言で表現するならば、『他者を絶望に叩き落とす仕事』であった。

 私の愚直なまでの真面目さが、情を斬り捨て、ひたすら後ろ暗い仕事に邁進することを可能にした。

 地獄を突き進むことに向いていたのだ。

 一生知りたくない適正だった。

 私はこの2年で、普通に学生をやっていたのでは決して知り得ない知識や幅広い人脈、そして度胸を手に入れることができた。

 その代償として、私はアオハルという言葉にピンとこない女に成り下がってしまった。青い春? それより目の前の職員を青ざめさせることの方が得意よ。

「私って、いったい何なの? 何のために生きてるの?」

 誰もいなくなったオフィスで、私はこっそりと泣いた。思いを溜め込めば苦しいし、口に出せばもっと涙が出る。

 おそらく、ひとり暗い室内にいても泣かなくなったら、私は終わりだと漠然と思っていた。

「また泣いているのか」

「一条さん……」

 同僚に声をかけられ、私は慌てて身体を起こす。

 デスクに、湯気の立つコップが置かれる。甘い香りがした。コーヒーが苦手な私のために、ピーチティーを淹れてくれたのだ。

 私はカップを手に、同僚の男性を見上げる。

 一条怜央れおさん。180センチを超える引き締まった身体に、俳優並のルックス。清潔感のある着こなしに、スマートな立ち居振る舞い。私より3つ年上なだけなのに、すでにエリートの雰囲気を身にまとう男性だった。

 彼はなぜか、よく私に話しかけてくれた。

 怜央さんといると、私は不思議と心が安らいだ。

 一番は、彼の『目』だ。

 優しさや真剣さの中に、暗い感情がかすかに混じっている。一見完璧な彼の濁り具合を見て、「ああ、この人も同じなんだ」と私は思うのだ。

 理不尽への静かな怒りが、怜央さんを支えている。私と同じように。

 どうやら、一緒にいて安心できるのは怜央さんも同様だったらしい。

 仕事中は氷のように冷徹な彼が、私の前では時々笑う。

「ふっ……鬼の目にも涙だな。いいものが見れた」

 こんな風に。

「いつか、一条さんの泣き顔も見てやります」と私が生意気な口を利くと、怜央さんはまた笑った。

「俺はお前が他人とは思えないよ。生意気な妹を通り越して、まるで鏡を見てるみたいだ」

「私だって、鬼畜な兄を通り越して、頑固な自分自身を見ているみたいです。おあいこですよ。ほんと最悪」

 笑いながら私は言った。笑うと気持ちが楽になる。心に熱が戻ってくる。

 私はカップに口を付けた。甘い物をちゃんと『甘い』と感じられたのは久しぶりだった。

 日々の地獄を生きる私にとって、怜央さんはわずかに差し込んだ陽の光だった。

 怜央さんにとっての私も、そういう存在であった。

 少なくとも、私はそう信じていた。

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